俺とバイクと寿司とシマシマ

俺はノッポ。今バイク屋にいるんだ。
この間、機嫌がいいときに調子に乗って乱暴にバイクを運転したら
ミラーを派手に壊しちゃってね。
うっかりしてたね。
あんまり乱暴だったから相棒のウィリーたちが怒っちゃってね。
そんなわけで新しいミラーの新調に来たんだ。
そしたらね。

店の中で盛大にファッションショーしてるお兄さんに出くわしたんだ。
バイク用のライトとかステッカーとかかき集めて、鏡見ながら

「いい!かっこいいぜ!!」

とか言って自分の体に飾りつけてるんだ。
おもしろかったからスケッチしてたらね、お兄さん共々店のおじさんに怒られちゃったよ。

「チクショウ、せっかくかっこよかったのに…!!」

そこらへんに散乱していたライトやステッカーをカゴに片付けながら、
お兄さんが悔しそうにしている。
ゴーグルと帽子を付けたトンボっぽいカービィだ。
勝手にトンボ君と呼ぼう。

「トンボ君、さっきのスケッチいる?」
「ほしい!」

おじさんにはトンボ君の連れだと勘違いされちゃって、俺は片づけを手伝うことになった。
トンボ君とは一緒に片付けているうちに意気投合した。
ものすごい量が散らばっていたけど、二人でやったおかげで片づけはそれほど時間はかからなかった。

「助かったぜ!お前いいやつだな!」
「そうかな」
「でも帽子がなんかすげえ!」
「そうかな」
「そうだぜ!」
「君は寿司で例えるとカズノコかな。いやタマゴかな?」
「マグロがいいぜ!!」
「うーん、でも色的に」
「マグロがいい!!」
「うーん」

このお兄さんやたらマグロに執着してくるぞ。

「寿司は好きかい?マグロが好きなのかな?」
「好きだぜ!かっこいいもんな!!」

おおっと、なんだかまったく想定外の答えが返ってきたぞ。

「かっこいいかな?」
「かっこいいだろ!赤と白のシマシマだぞ!!」
「シマシマ…」

ああ、確かに言われてみればシマシマかも。

「やっぱりマグロが一番かっこいいよな!」
「うーん、とりあえず定番だね。おいしいね」
「な!な!!」

ここまで大はしゃぎで寿司のことを語る人っていうのもなかなか無いよなあ。
しかも見た目のことで。
…と思いきや、トンボ君がいきなり深刻そうな顔をした。

「ハッ…だが…だが…!!!
 俺はマグロよりも…正直ツナマヨの方が好きなんだ!あああチクショウ…
 ツナマヨはシマシマじゃないのに!マグロの方が赤くてシマシマでかっこいいのに…」
「なるほど。君は理解しがたいセンスをしてるね」
「なんだと!シマシマかっこいいだろ!!」
「シマシマはかっこいいとしてもマグロはかっこいいのかなあ」

「あ、でも…
 ツナもマグロだから元々はシマシマだったと思うよ」

それを聞いて勢いよく振り向くトンボ君。

「何!?…?……ツナってささみじゃなかったのか!!?」
「マグロだよ」
「…つ、つまり…、ツナはシマシマだったんだな…!!!」

違うと思ったけど口には出さないでおこう。
一瞬の沈黙の後、トンボ君は涙を流して歓喜の声を上げる。

「ああ…あああッ!!天才!お前超天才だぜッ!!!
 俺はシマシマ好きでいられるんだ!!やったぜ!!!!」
「訂正するね。君寿司に例えたらマグロだね」
「マジで!!!!!????」

なんというか止まらないところが。
わお、めっちゃ嬉しそう。

「ありがとうな…ありがとうな…これでシマシマの道に一歩近づいたぜ…!」

シマシマの道とは。

「なんだかよくわからないけど、よかったね」
「よかった!!!!」

そのときだった。
店内に響く大音量の着信音。というかデスボイス。

「いっけね!もしもし!!」

トンボ君の携帯だ。どうやらデスメタルも好きらしい。

「わかってる!!そろそろ帰るから!!飯抜きはやめて!!飯抜きは!!!」

トンボ君は明らかに焦っている。
カービィだからね。ご飯抜きはつらいね。

「チクショウ!もっとシマシマについて語りたかったのに…そろそろ帰らねえといけねえ…」
「そっか。ご飯抜きになっちゃうから急がないとね」
「おう!だが心配ご無用!俺は超速い!!!」
「そっか。でもお店を出る前にお勘定を済まさないといけないと思うよ」
「問題ないぜ!おっさんツケで!!」
「やるなあ」

困惑する店のおじさんをスルーしてトンボ君は外に出た。
そしてこちらを振り返り。

「じゃあな!!絵ぇありがとよ!!!」

そう言うと帽子の中から何かを取り出したトンボ君。
飴玉かな?
それを口に放り込んだ瞬間、トンボ君は光に包まれ――

めっちゃ派手な二輪バイクになりました。

その姿はまるでちっちゃいデコトラ。
数々のパーツの中には見覚えのあるものがいくつか。
さっきトンボ君のカゴに入っていたライトやステッカーだ。
さっきのファッションショーの意味はこれだったみたいだ。

「特別にクールな俺様をお披露目しながら帰っちゃうぜー!!」

ぎゅんぎゅんとスピードを上げ、ちっちゃいデコトラはあっという間に町の向こうへ消えてしまったとさ。

「…うーん、今の姿もスケッチしたかったなあ」

ものすごいインパクトに思わず声が漏れた。
しゃべっただけなのになんだか疲れちゃったな。
気が抜けると同時にぐううと腹の虫が鳴った。
俺もご飯の時間だなあ。

周りを見渡すと、たくさんの人で賑わっている場所を見つけた。
あのスーパー、丁度セールをやっているらしい。
俺はちょっと考えて、

「よーし、今日は奮発しちゃおう」

新しいミラーを取り付け、ご機嫌のウィリーたちとともにスーパーに向かう。
晩御飯はマグロかな。シマシマのやつね。

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3件のフィードバック

  1. より:

    怒涛のシマシマ推し!ただ会話してるだけなのにすごいインパクトでたいへん面白く読ませて頂きました…!二人のちょっと異次元な会話とアーレイド君の突き抜けたテンションがおかしくて、もう!
    とりあえず、バイク屋のおじさんにはドンマイと伝えてあげたいです。

  2. ミツコア より:

    ツナはシマシマに謎の納得

  3. より:

    おバカなアーレイド君と、変人ノッポさんの絡み最高にカオスですねwww
    ノッポの例えを勢いで捻じ曲げるとは…こいつタダのシマシマじゃない…!
    店のおじさんぇ…
    マグロくいてーなー

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