お花見プラネット

世界中の植物を集めているプラントプラネットには、見上げるほどに大きな桜の古樹も植わっている。
桜が見頃になる時期には、プラントプラネットの住民みんなで古樹の下に集まり、お花見をするのが恒例の行事だった。しかし。

「いけませんねぇ」

カイエンは桜を見上げて「むむぅ~」と唸った。だいぶお年寄りの桜である。ここのところ樹勢が落ちていたが、今年は特に悪い。
「病気なのでしょうか」
「え~っ、大変なのです!」
サラセニアがおろおろした声を出す。周囲にいる他の住民達も心配そうにしている。

「サラセニアさん、桜の声を聞いてみてくれませんか?」
サラセニアは、植物と意思疎通が出来る民族の生まれである。「やってみるのです」緊張した面持ちのサラセニアが桜に走り寄り、幹にぴたりと耳を当てる。難しい顔で1分以上黙りこんだあと、
「いちおう聞いてみるのですけど、桜って食虫植物だったりしないです?」
「そんな訳ないでしょう」
「にゃはは~、だよねー。お役に立てずごめんなさーい」
幹から体を剥がして気まずそうに笑った。どうやら声を聞くことができなかったようである。

エルバが一歩、進み出る。
「桜が元気になるよう、魔法を掛けてみましょうか」
「それなら私も手伝おう」
エルバの後ろからチナシーも進み出て、二人は桜の幹に手を触れた。
チナシーとエルバが魔力を注ぐ。ぐぉん、と樹がひとまわり大きくなった気がした。
ざざぁ、と、花吹雪が舞う。さっきまでの元気のなさがウソのように、桜の古樹は満開の花を咲かせていた。
幹の中央に、目・鼻・口を作った状態で。

「「え?」」

地面から突き出した根っこが二人を串刺しにする直前で、エルバの被っている帽子(アコーニト)がなんとか防御魔法を展開して二人を守る。

「な、何をしたんですかお二人ともー?!」
カイエンがヴァインウィップで木の根をさばきながら叫びかける(サラセニアはきゃーきゃー言いながら花のカッターから逃げている)

「元気になーれ!って思いながら魔力を注いだだけですよ?!」
「彼女に同じくっ」

ウィスピーフラワーズの根本から慌て飛び退りながら答えるエルバとチナシー。
桜の古樹は大暴れだ。花のカッターがいくつも吹きすさび、何本もの根っこが槍のように突き出し、花粉弾が地面をえぐる。お年寄りとは思えない荒ぶりっぷりである。古樹の猛攻に、全員が命からがら逃げる。

「ただいまー」
その場にそぐわぬ飄々とした声。
「イオンさん!」
「これは何の騒ぎかな?」
イオン。プラントプラネットの園長だ。植物の種を探す旅から帰ってきたらしい。
チナシーがかいつまんだ説明をすると、「天空に咲く花に魔法をかけたらウィスピーフラワーズが生まれた、っていうお話があったね」と目を細める。
暴れる桜の姿をしばらく眺めたあと、背負っていたバッグからなにか赤い種を取り出し、桜の古樹に投げつけた。

種が触れた瞬間、あっという間に古樹が怪しい色のツタに覆われる!
がんじがらめになった古樹は身動きがとれないようだ。

「イオンさん、さっきの種はいったい……?」
「フッ、聞いて驚いてくれ」
イオンは嬉しそうに種の入った袋を掲げると、
「フローズンカンティネントはフクレセウで採取した『悪魔の種』といってね。フクレセウの毒の大地でも繁茂しようとがんばっていた生命力の強い種で」
「除草ー!!」
「おや、何をするんだカイエン」
「何をするんだはこっちのセリフですよね?! メリヒオールさんがレポートで『何にでも寄生するからちょう危険だよ~』って書いてたやつじゃないですか?!」
魔法や草カッターや葛の鞭が一斉にツタを切り刻むなか、カイエンが叫ぶ。
イオンが投げたそれは、触れれば植物、動物、見境なく寄生してくる悪魔の植物。危険度は大だ。普段は温厚なカイエンもさすがに激昂する。

「だが桜は落ち着いたぞ」

イオンが指す先、ツタを削ぎ落とされた古樹は満開の状態で大人しく地面に生えていて。
「魔法が完全じゃなかったのか、ストレスを与えたから大人しくなったのか。興味深いな」
とにかく良かったじゃないか、と肩をすくめるようなポーズをとるイオン。
何はともあれ、今年も全員でお花見を楽しむ事ができたプラントプラネットの住民達だった。

…。

「ねえエルバ君、チナシー君。次はそこの花に魔力を注いでみないかい?」
「「洒落にならないです!!」」

おしまい

——————–
素材お借りしました
「百花繚乱」さま:http://flowerillust.com/

Twitterでこのページを宣伝!Share on twitter
Twitter

コメントを残す