影追いの記録

千歳矢絣にたどり着き、この街の影について追うことを決め在住を決意した。ここには、その影追いの日々を綴る。
まずは、この街の住人たちに話を聞いて回ろうと思う。さて、録音機を用意しよう。

●黒鳶町長
―やはり町に詳しいということで、黒鳶町長に影についてお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。
「え?あ、うん。よろしくお願いします。」
―ずばりお聞きいたしますが、『影』とは何ですか?
「……夜に子供が外を歩くと影にさらわれ、喰われてしまう。という言い伝えは古くからこの町にある。その正体は不明だよ。」
―では、子供の夜遊びを戒める為の寓話という事ですか?
「そうと言いきれないし、そうじゃないとも言えない。僕がそれを断言することは出来ないよ。君も仕事柄興味はあるかもしれないけれど、夜はちゃんと帰るんだよ。」
―僕は大人なので。では、封鎖された鉱山はどうでしょう?何故封鎖されたのですか?
「……事故の危険性が見られたからとか、危険な物質が出てきたとか諸説あるね。残念ながら僕からは何も言えない。まあでも今は誰も入れないようにしているし、何故なのか確かめる術はないかな。」
―この間廃坑に入る人影を見ましたが?
「その正体は分からないけれど、もしかしたら君の求める『影』かな?……でも立ち入ってはいけないよ。」
―分かっております。ルールの範囲で探し求めるのが好きなので。……それでは、本日はありがとうございました。
「いえ、こちらこそ。」

●記憶力のいい女給さん
―記憶力がずば抜けていると噂でお聞きしましたので、本日は質問にあがりました。よろしくお願いします。
「よろしゅう〜。わぁ、いんたびゅうなんて有名人みたいやわぁ。トラマルさん、よく書いてくださいね〜。」
―僕は言われたまま記すだけですよ。あと、これを記事にするかは未定です。
「あら、そうなん?せやったら記事に出来るよぉ、お話せんとなぁ。」
―ありがとうございます。ではまず、色葉さんは『影』に会ったことはありますか?
「ありませんよぉ、影に会ったら攫われて食われてしまうやないですか?それに、私は夜に出歩かないよう気をつけていますので〜。……たまぁに暗くなりそうな時は、送ってもらうんよ。」
―なるほど、では『影』に出会ったというお話を聞いたことはありませんか?
「うーん、影かはわからんけれど、こわい話はよう聞くなぁ。でもこれってトラマルさんの方が詳しいんやない?」
―確かにそういった話は集めていますが今は色葉さん目線のお話が聞きたいので。そのこわい話に『影』と思われる話はありませんでしたか?
「うーん……ある日子供たちが遊んどったら、1人最初にあそび始めた人数より多くて、でもその1人が誰なのか思い出せないとか。『影』に襲われた子がどうなるか、食べられてまうって話やけど、周りから認識されなくなってしまうみたいな事やったら、気付かれないうちにいなくなった話もやけど誰なのかわからないのに出会った話も『影』の話に含まれるんやないかなぁ。」
―ほほお、面白い考え方ですね。参考にさせていただきます。では次に廃坑についてなにか知っていることがあれば教えてください。
「なんも知らんよぉ。立ち入り禁止やないですか〜!」
―それもそうですね。それでは、本日はありがとうございます。
「おおきに〜。」

●終日帳からの入居者 副町長
―本日はお酒を持ってまいりましたので、こちらでも飲みながらゆっくりお話お聞かせください。
「おっ、悪いね〜!それじゃあ早速……。」
―……えー、質問を始めさせていただきます。まず、ヒネモストバリからいらっしゃったとお聞きしておりますが、ヒネモストバリでこの町の『影』については伝わっていましたでしょうか?
「ぷはぁ!ん?あーそうだねぇ、噂程度に流れていて、興味のあるやつは知ってるくらいかなぁ。あの町はあの町で色々と伝承が沢山あるから、そっちの方がみんな知ろうとしてたっけねぇ。」
―それはそれで興味深いですが、では八重桜さんは『影』についてどのくらいご存知ですか?
「そんなには知らないさ、夜中に出歩いたら影に攫われて食われちまうってね。つっても夜にパトロールしてる身からすりゃあ影も怖いが酔っぱらいもうんと怖いさねぇ!ひゃっひゃっひゃっ!」
―……こほん、次に行きます。廃坑には行ったことはありますか?
「あー副町長になる時に黒鳶町長に連れていってもらいましたかね〜ここは危ないから誰かが立ち入ったらすぐに連れ出すようにってさ。」
―ほう!中はどのような感じでしたか?
「まあまあ、取り敢えず貴方も飲みなさいって!私が注いでやっから!」
―え、いやちょっと僕は仕事中ですので。
「シラフ相手じゃ酔えるもんも酔えないってもんですよ!ほらグイッといっぱい!」
―待っ……
※録音データはこれから先はあまり意味の無いものになっていた。

●何故か最初避けられた少女(子供の話を聞きたいのに!)
―えーと、それでは駄菓子を食べていただいたところで……質問させて頂いてもよろしいですか?
「ん……ごめんなさい。大人は苦手、なの。」
―大丈夫です。僕の心はいつまでも若々しい少年ハートなので。……と、まず最初に、あなたは『影』の事をどう思っていますか?
「………………。」
―……分かりました、次の質問です。何か遊んでいて、不思議な体験をしたことはありますか?
「………………。」
―……えー、最後の質問です。多分ないとは思いますが……廃坑の中を見たことはありますか?
「ある、の。」
―!?
「わたし、おともだちなら、案内してもいいの。あなたは、おともだちになってくれる?」
―なりますなります!あっ、えっと、廃坑の中を見たことあるというのは冒険ですか?それとも何か理由があって入れたのでしょうか?案内するということは案内できるということですよね?そこの所教えてください!
「うん、ついてきて。でも、きっと覚えられない、の。」
※ここから先の録音データはぶっ壊れていました。(何故か記憶もありゃしない!)

●影狩りさん
―今日こそは有力情報を得るため、よろしくお願いします。
「なんかそんなグイグイ来ると引くなぁ……まあよろしく。」
―早速お聞きいたしますがら『影』に出会ったことはありますか?
「……多分、ある。アレがそうなのかは断定できないけれど、あたしはアレを『影』だと認識した。だから、今はこうして……」
―あ、その辺の話はまた今度でいいです。しかしやっといい情報です!その時出会ったものはどのような存在でしたか?見た目や雰囲気などですが。
「サラリと流しやがったな…そうだね、本当に『影』と呼ぶに相応しい気がした。夜の暗闇に溶けて、姿をきちんと認識しなかった。まるですぐ側にいたかのように恐怖が、息遣いが間近に感じた。」
―影狩りになってからはどうですか?
「まだ追ってる段階だ。正直、どうなるかは分からないよ。」
―……私からしたらやめていただきたいですけれどね。
「そりゃこっちのセリフだ。たまに邪魔してくるだろ!」
―僕は狩りたいのではなく会いたいなので。
「アンタいつか食われるよ。」
―それもまた僥倖。
「変態め。」
―話がそれてきたので戻しますねー。廃坑に行ったことはありますか?
「……行ったことはあるけれどそんなに立ち入ってはいないよ。危ないらしいし。」
―そうですか。質問は以上です。ありがとうございます。
「あっ待てまだ話は終わってないっての!」

●都市伝説にもなる彼
―顔を見るなり逃げられた時にはどうしようかと思いましたが、いんたびゅうよろしくお願いしますね!
「本当におれのことは聞かないんだな……?」
―わたくし、嘘はつきませんことよ。
「…………。」
―……ごほん、まず一つ目にお聞きしたいのは、『影』についてです。夜のひとり歩きを戒めている貴方でしたら何かご存知ではないでしょうか?
「さあ、おれもそれらしいものに会ったことは無いな。いるにしてもいないにしても、子供の夜歩きは危険だから関係ないけれど。」
―では、あなた自身はそのようなものは存在しないとお考えで?
「そうとは言わない。おれが会ったことが無いだけで、いないなんて証明はできない。いるなんて証明もできないけど。」
―……ぶっちゃけあなたが『影』という噂もありますが?
「おれは食ったりなんかしないし、そもそも攫わない。」
―ですよねー。では次の質問です、廃坑に立ち入ったことはありますか?
「無い、よ。入ったことはね。」
―では、外から見たり近づいたことはあるということですね?どのような様子でしたか?何か見たりしませんでしたか?
「黙秘する。」
―……分かりました。では最後に、あなたの思う『影』の正体とは?
「……生活を脅かす、驚異全ての総称……なんてね。つまりおれにとってはおまえが『影』みたいに恐ろしいよ。」
―うふふ、ありがとうございます。質問は以上です。
「ああ、では約束通り。」
―はい。期限は明日までですよ。

●アクセサリー店の天使
―本日はいんたびゅうを引き受けてくださり……えーと、いったんそれ置きましょう?
「お主がこれを着けると言うから引き受けたんじゃぞ?ほれ!はよう!……ブレスレットが嫌ならばこっちのイヤリングなんてどうじゃ?ああ、尻尾用に新しく考えるのもええのう!」
―質問を始めさせていただきます!数年前に地上に降りてきたルリさんですが、以前いた場所では『影』の事をご存知でしたか?
「……さあて、どうじゃったかのう?ちぃとてんしょんが上がらぬ故、思い出せんのう……。」
―……はぁ、イヤリングでお願いします。
「よしきた!……『影』じゃったな?お主にとっては残念かもしれぬが、そのような噂は届いておらんかった。とは言え、地上全体のあらゆる事象から比べたら、一つの町の噂話などそう広まるもんでもないからのう。」
―そうですか…。では、あなた自身はこの話を聞き、『影』についてどう思われますか?また、それらしいものに会ったことはありますか?
「子らに危険を戒めるといった意味であれば、この手の話はごまんとある。しかし一部の者の過敏な反応を見るに、ただの創作として片付けていいものでは無いじゃろうな。わし自身は見たことなどないが、『影』を、もたらす者と大きく括るのであれば……お主のことを『影』と呼ぼうかのう。」
―ほうほう、それはそれは……。ふふ、その話の続きはまた今度お聞きします。続いての質問です。廃坑に立ち入ったことはありますか?
「無い。ここに住む時に真っ先に説明があったからな。鉱石があるなら気になるが、危険があるならば行く気は無い。」
―……はい。以上で終わりです。ありがとうございます。
「よし、出来たぞ。ほれ、着けよ。着けてみぃ。約束じゃろが逃げるな待たんか。」

●駄菓子屋店主(暇そうにしてたから)
―店主暇そうなら質問に答えてください。
「レジに座ってる様子を見て暇だと思うならどうぞ。」
―お客さんいないではないですか。
「朝早いからね?こんな早くから来られてもそりゃいないよ。あと何でそんな厚着してるの?」
―イヤリングの効果があと三日の辛抱なので。それより質問です。店主はなにか『影』についてご存知ですか?
「さあ」
―……さあって……
「とりあえず記憶にはないなぁ。でも、もしかしたら気付かないうちに出会っていたかもしれない。知ってるかもしれない。でも覚えてないや。」
―……はぁ、では次。店主の思う『影』の正体はなんですか?
「怖いもの」
―それだけですか?
「うん。だってそうじゃない?みーんなが怖いって思って、出会わないようにずっと言い続けるなんて相当怖いものでしょ。」
―な、なるほど?では、怖いものの概念そのものが『影』であると……。
「なにそれ」
―あなたが言ったことでは!?
「そんなに考えてないけどなぁ。あ、あれだよ。そもそも『影』の被害にあったら攫われて食べられるのにどうしてそういう噂が流れ始めたのか、ってのは気になる。目撃者がいるとしても、食べられるまで見たことある奴なんていないんじゃないかな?なのにみんな噂する内容は同じ。気になるねー。ほら、調べてきなよ。」
―体良く追い出そうとしている雰囲気はありますが、なるほど。それもまた調べてみますかね。最後に一つ、廃坑に行ったことはありますか?
「うーん、覚えてないかな。」
―ありがとうございます。あ、フライポテトください。
「毎度あり」

今のところ進展はなし。しかし、確かに『影』はこの町に息づく怪異として存在している。
私は今後も調査を続けねばならない。この左半身の相棒のためにも。

これにて記録は一時終了

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