【捏造SS】聞こえざる声

※この文章には捏造が含まれています。ご了承ください。
 
 

「…黒鳶、俺は町長は継がないよ。もう耐えられないんだ。」

チトセヤガスリには数十年も前に閉鎖された炭鉱がある。理由は不明だ。
次代町長である兄弟のうち、兄・紅鳶は幼少期から鉱山を恐れ、近づくとひどく怯えるのだった。
それから少し時は流れ、町長の職を継ぐ前に街を抜け出した。

***

スターライト・エクスプレス、通称SLEはビルレスト大橋を経由してジークフリートとメカノアートを繋ぐ、大陸間特急だ。
紅鳶はそこで車掌として働いていた。
「スターライトエクスプレスにご乗車いただき、あー…誠に、ありがとうございます。次の停車はビルレスト北、ビルレスト北です。」
マイクに向かって乗客アナウンスを読み上げながら、ちらりと誰もいないはずの席を見やる。
(…いるな。)
紅鳶の目にはそこに、うっすらと白い影が見えている。だが取り立ててどうすることもない。いつものことだ。
1か月に数体は”そういうやつ”がいる。中には、自分が生きていないことに気づいてないやつまで。
死してなお、旅行したいのだろう。
(無賃乗車は勘弁してほしいが。)
スルーして他の乗客の切符を切りに行く。

「お、紅さんお疲れさまでーす」
一客室の扉を開けると、いつものようにエクスがくつろいでいた。まるで自室のような空間である。
「…あーもう。住み着くのはいいがよ、あんまり散らかすのはやめてくれよ…。クリーニングが大変だからな」
「大丈夫だって。降りるときにはきれいにするっすよ。立つ鳥後を濁さずってね」
そういってエクスはヘラヘラ笑った。紅鳶は言うほどには興味がないようで、切符を確認するとさっさと部屋を出た。
また来たんだね。気づいて。
「まもなくー、ビルレスト北、ビルレス…ザザ…」
橋に差し掛かるとアナウンスにノイズが走った。これもよくある現象だ。
しかし今日はそれだけではない。駅に停車すると原因不明の故障により、列車が動かなくなった。これはごく稀にあることだ。
(ちっ、たく…)
溜息を付きながら、復旧を待つ紅鳶。今日はやけに長い。ぼーっとしながら少し考え事にふける。
気づいて。気づいて。気づいて。気づいて。
そもそも、ここはあまり良くない気が漂っている、と紅鳶は感じていた。
そういえばホテルに怪しい管理人がいたが、またそいつの持ってる業とは違う…場自体に感じられるものだ。
(橋になんかあるんだろうな。しかし曰く付きってほどそう古い建造物でもねぇし)
そこまで来て紅鳶はハッとした。
橋の中で、私は生きているよ。
人柱の可能性。
友好のかけ橋を、未来永劫支えるために。
こんなに大きな建造物を、当時無事に作ろうとしたら、それくらいの願掛けはしたんじゃないだろうか?
嫌な憶測が頭をかすめる。でも恨みでも未練でもないこの”感じ”は、そうとしか思えないのだ。
気づいてしまったら、だんだん輪郭を帯びてくる、呼び掛ける声のような、それ。
やっと気づいたね。
(ああ、ここでも逃れられないのか)
炭鉱から聞こえてきた、かつての労働者の霊の声を聞きたくないがために逃げ出したというのに。
目をつぶっても耳はふさぎきれない。見ないふりをしても聞き逃すことはできない。
囁きのような耳鳴りが、止まない。
私はここにいるよ。私はここにいるよ。私はここにいるよ。私はここにいるよ。
やがて復旧のめどがついたと連絡が入った。紅鳶は面を上げて溜息をつき、車両へと戻った。

end.

 

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※考察というか捏造
 紅鳶は目よりも耳に来やすい霊感持ちだったらいいなと思いました。
※文章をドラッグしてみると…?

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