【捏造SS】タイムトリッパー

※この掌編には設定の無視が含まれています。ご注意ください。

俺の名前はツバキ。10代、男だ。今あることに困っている。
能力の制御ができないのだ。

例えば、ふとした瞬間に時を飛んでいたり、異常なほどの距離を移動していたり、矛盾するようなできごとが起こる。
この間も、セルリアンスプリング周辺を歩いていたというのに突然時空間の狭間に引っかかってしまい、無限に近い時を過ごしそうになった。すんでのところで現在に戻ることができたが、場所はヒネモストバリ。往来のド真ん中に出たのだが、ひどく酔った青い狸みたいな奴が暴れまわってたせいか、誰も不審に思わなかったようだ。

そんなことをこんこんと説明していると、さっきまで静かに頷いていた目の前の男は
「はい、わかりました。今日もお薬出ますんで、ちゃんと飲んでくださいね。お大事に」
そういって『ジプレキサ』と書かれた処方箋を俺によこした。
ふん、こんなもの、どうせただのプラシーボだろう。こんなものじゃ俺は直せない。もっと根本的なことからはじめなければ…。
思索にふけりながら病院を出ると、視界の歪みが始まる。ああ、またか。今回はどこへ飛ぶんだ?

気が付くと、俺は原生林の中にいた。一体ここはどこなんだ、と思ってスマホを開いたが、電波はまったく通じない。いろんな意味で電波社会の現代にまだこんな場所があったのかと少し驚いていると、何かがこちらにやってくる気配がした。
やってきたのは、頭頂部に何本か葉っぱを生やした球体だ。
そいつ―モースはこちらを見るなり
「も?」
と言って首をかしげたが、すぐに
「もっ!」
と言って俺に駆け寄る。なんだかやけに嬉しそうだが、俺はこいつとそんなに知り合いだったろうか。
とりあえず、奴に人のいる場所まで案内してもらうことにした。様子から言葉が通じてるんだか通じてないんだかわからないが、モースを先頭にしてジャングルの中を歩く。川を渡り、滝の近くまで行くと妙な既視感を覚えたが、特に気にしなかった。
やがてジャングルを抜けるとそこには広大な野原が広がっていた。モースはそのへんにある平らな石に寝転がり、寝息を立て始める。おいおい、案内してくれるんじゃなかったのか。俺も一緒に寝るとでも思ったのか。呆れながら周囲を見る。見渡す限り…山と川と原と石くらいしかない。ここもなぜだか見覚えがある。
草に座り込んでよく思い出すことにする。こんなときは瞑想がいい。
目をつぶって深呼吸をしながら、さっきの道のりで滝の近くの壁にに小さな星型を見たのを思い出す。
俺は弾かれるように目を開けた。そうか、ここはスタビレッジだ。それも昔の。
言葉が通じないほど大昔なのかもしれない。ということは、モース、こいつ一体いくつなんだ。
そのへんのシダ植物を抜いて現実逃避するように手の中でいじりだす。半ば呆れぎみでどうするかなあ、と考えていると、視界が歪み始めた。徐々に大きくなる喧騒。顔をあげると、現代のスタビレッジに帰ってきたみたいだ。
ぼーっとしていると、現代のモースが声をかけてきた。
「何持ってるの?」
モースは俺の手にある葉っぱを見ると、
「あ、それ懐かしいなあ。今みかけないんだよね。どこで拾ってきたの?」
といってちょんとそれに触った。すると葉っぱは粉々に砕けて散ってしまった。急激な時間の変化でギリギリ形をたもっていたんだろう。
モースはちょっと残念そうな顔で、少し沈黙する。それから、ふと思い出したように言った。
「そういえば、昔君に似た人とあった気がするんだ。ご先祖様かな。」
俺は曖昧に答えた。
「…かもね。」

end.

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1件の返信

  1. より:

    SF感溢れる!!
    面白かったです。ツバキさんのキャラが好きです。えらい事に巻き込まれているのに平然としているところが非常にクール……。「能力の制限が出来ない」って設定を付けて動かすとこんな風になるのか、とびっくり致しました。その発想に脱帽です。面白い…すごい…。話が壮大で滾ります。
    あと「も?」「もっ!」と話しているモース君が可愛らしかったです。最後のオチも素敵でした…!

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