柊「鈍器マスターと行く」~ムンホ編~

エリア横断旅行を始めるにあたって、訪れた街の特徴を纏めた手記を綴ることとした。それに際し、先駆けとしてまずムーンホールについてここに記す。

【ムーンホール】
ホシガタエリアの中央付近に位置する街。別名満月を称える街。地面に出来た穴の内側に成立し、丸い街壁の外側をぐるりと堀が囲み、街への入り口は二つの跳ね橋だけである。
街はすり鉢状に二段に分かれており、さらに街には数ヵ所の地下への入り口もある。
街の中央は広場になっており、移動式動物園がやってきたり、モニュメントが置かれたりする。
気候は比較的穏やかであり、明瞭な四季が見られる。中規模都市でありながら、物品の流通に関しては他の大都市にも引けを取らないので、暮らすのに不自由はしないであろう。
特産品として、ムンホロール、ムンホクーヘンがあり、その他街の喫茶店のオムライスはその味もさることながら食前の独特のパフォーマンスが人気である。

ーー『柊の旅行手記-起-』より

~某日、ムーンホールにて~

「…うーん…」

「ふふふ、どうです?お決まりですか?」

「よろずや」の看板が掲げられた店の軒先では、メガネをかけた青年コーパルが長机に並べられた商品とにらめっこしていた。
それを紅い角と純白の翼をもったこの店の主人、柊が机の向こう側から催促するように眺めている。

魔法やコピーの類いが一切使えないことがコンプレックスなコーパルが、柊の店に魔法具を買いに来るこの光景は、ムーンホールで暮らしていれば一度は見たことがあるだろう。それくらいの常連である。

「…これと、あとこれを一つずつ。」

コーパルは分厚い本と、ぼんやり薄翠に発光する石とをまじまじと見比べた後、本を机に置いて言う。

「おや、そちらの魔石にするのですか…それはバンバタ産の、人気のヤツでしてね、」

その様子を見ていた柊はそんなことを言いながら商品を受け取りにぱたぱたと駆け寄る。

「ええと、これとこれですと…合計で5000¥ですね~」

「ええ…結構するなあ…一応聞くけど、まけてくれない?」

「はは、ご冗談を」

柊がにっこり笑って返すと、コーパルはまあ、わかってたけどさぁと不満げに独りごちて支払いを済ませた。

「あ、そうそう、コーパルさん、5000¥のお買い上げですから、福引きをどうぞ?」

「え、福引き?そんなのあったっけ」

「いえ、今日から始めましてね…3000¥のお買い上げごとに一回となっております」

「う…ほんと、君は商売上手だね。」

「ふふ、そんなにお誉めにならないでくださいな。それで、何か追加で買っていきます?一等はなんと…」

「うーん、今日はいいかな。どうせ端から当てる気なんて無いしね…」

「おや、そうですか?それは残念です。」

柊の言葉を遮り、やや自嘲ぎみにコーパルは呟くと、福引器のハンドルにてを伸ばし、回そうとした。

そう、回そうとしたのだが、

「…え、ちょ、何これ重くない?」

「だから、本日からって言ったじゃないですか~。まだ玉がぎっしり詰まってますからね!」

「いや、にしても重…どんだけ入れたんだよ君…」

「ちなみに一等の金の玉は一つです♡」

「もう当てさせる気ないよね!!?」

楽しそうににこにこと微笑む柊を横目に、コーパルはやれやれ、と呆れ顔を見せた。

全く誇らしくないが、力だけは強い自分ですら回すのに苦労するというのに、まして他の人に回させる気があるのか…と、訝しんだコーパルだが、とりあえず早くこれを回して帰ろうと、右手に力を込める。

「これホントに重ッ…ッ、どおりゃあああああ!!!」

怒声に近い声をあげて思いきり右手を降り下ろす。すると、途端に勢いのついた器機はジャラジャラと景気よく音を立てながらぐるぐると数回回り、そしてーー

「はあッ…はあ…、え、何、どうしたの柊、そんな顔して…」

「…あれ、これって…!?」

コロリ、と金色の玉を吐き出した。

「「…えええええええ!!?!?」」

その日、ムーンホールに二人分の叫び声がこだました。

To be continued…

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