【小説】夢夜にねがいを 第10話(アスタ編②)

「静かだな……」

 綺麗に舗装された道を黙々と進みながら1人呟く。
 ふっと耳をすませば聞こえてくるのはシーンとした静寂だけ。それ以外は何も入ってこなかった。
 周りを見渡せばただただ白い長方形の構造物が立ち並び、殺風景な景色で見ていて飽きてしまう。

 メカノアート。
 それがこの街の名前。

 ボクはこの街の事は何も知らない。でもこの街は……来たくなかった。きちんとした理由をつけろと言われればたぶん曖昧にしか答えられない。だけど嫌なんだ、とても。
 なんで飛ばされた先がこの街だったんだろう。偶然なのか、それとも必然なのか。その答えはおそらく神様だけが知っていることなんだろうな。
 それにしても……

「人が1人もいない こんな大きな街なのに……」
 これでは今のニーナタウンと一緒だ。だとすると、この街の住民もみんな寝ているのかな。
 嫌な予感が頭をよぎりつつも街を探索していると、どこからかいい匂いが漂ってきた。その匂いを嗅ぎ取るとそれに釣られるかのようにお腹がぐうーっと鳴り出す。
 ……何か食べよう。
 空腹に負け匂いの元を辿ってゆくと、一台のワゴン車が目に付いた。
 どうやら美味しそうな匂いはあそこから出ているみたいだ。持ち合わせは少ないけど、背に腹はかえられない。

 ボクは車の前に近づくと、白いコック帽を被った料理人らしき人にお店はやっているのかと尋ねた。
 するとその料理人はボクを見るなりキツイ眼差しでギッと睨みつけてくると、水の入ったコップだけ静かに差し出し再び元の作業に戻る。
 コップが差し出された……ということは、少なくとも門前払いということはなさそうだ。
 相手の様子を伺いつつ椅子に腰掛けると、料理人に声をかける。
「注文したいんだけど…いいかな?」
「……オマエ、他所者か。この街のヤツら見なかったか?」
「見てないけど」
「そうか。で、注文だったな。と言ってもメニューなんてもんはねえが」
「キミに任せる」
「物分かりがいいな。少し待ってろ」
 そう言って料理人は鍋に手をかけお玉でひとすくいすると、曇り1つない銀白色のお皿によそいボクの前に置いた。
 目の前の白い料理からは湯気が立ち込め、その香りを楽しむとスプーンですくい口へと運んだ。
「……美味しい」
「当たり前だ。オレが作った料理だからな」
「これ…シチューだよね?」
「ああ、そうだが?」
「白ワイン…か」
「⁈オマエ、料理人か?」
「いや 趣味で料理を作ってる者だ」
 ボクはそれだけ答えると、黙々とクリーム色のシチューを口へと運んでゆく。まさかシチューが出るとは思わなかったけど、これでしばらくは大丈夫だろう。
 最後の一口をしっかりと味わうと、スプーンを皿の上に置き料理人へと返した。
 料理人は出された皿を黙って受け取ると、流しで手早く洗い皿を丁寧に元ある場所へと戻す。
 一連の作業を終えた料理人がこちらへ顔を向けると、キツイ眼差しのまま口を開く。
「1つ聞かせてくれ。何故さっきは隠し味に白ワインを入れていると分かった」
「口当たり …粉っぽさが全くなくて、食べやすかったから」
「それだけで分かったというのか?」
「なんとなく…だけど」
「……そうか」
 料理人は少し悔しそうな顔をしながらコック帽を外すと、頭上の雨避けをそっと閉じた。
 少々驚きつつも椅子から降りると、車体の後ろから扉を開ける音と共に先ほどの料理人がこちらに近づいてきた。
 ボクは目を合わせないように下を見つめるが、料理人は気にも止めずに椅子を車の中へと片付けてゆく。
 やがて目の前にあった椅子が1つ残らず視界から消えると、料理人はボクの肩を叩きながら言った。
「今日はもう店じまいだ。やることができてしまったからな」
「……」
「オレの名前はヴィオ。この街で料理人をやっている。もし良ければオマエの名前を教えてくれねえか?」
「…アスタ」
「分かった。その名前、覚えておこう。今度会った時はオマエの料理を見せてくれ」
「……?! ボ、ボクので良ければ……」
「ありがとよ。それじゃあな」
 ヴィオと名乗った料理人はそう言い残すと、運転席に乗り込み平坦な道のりを走り去って行った。

 1人取り残されてしまったボクは満たされたお腹をさすりながら、再びあてもなく歩き始める。
 しばらく歩いていると、街の中心らしき場所に出た。と言っても、本当に中心部なのかは分からないけど。
 そこで一息ついていると、突然ギュルルルという車輪が回る音が後方から聞こえてきた。
 音の大きさから察するに、どうやらこちらに向かって移動してきているみたいだ。
 面倒ごとは御免と思いつつも後ろを振り返ると、足に車輪をはめた何者かが距離を詰めてきてボクの前でピタリと止まった。
 その人は帽子のツバからチラリと目を覗かせ、ボクの事をじっくりと眺めると「またか……」と小さく呟き口を開ける。
「あなた、この街の者ではありませんね?」
「え、えっと……」
「はっきり答えなさい!どうなんですか?」
「そ…そうだけど……」
「やっぱり。ついてきて、ここは少しまずいから」
「……?」
 何がなんだか分からないけど、ここはついて行った方が良さそうだ……
 そう思ったボクはこの人の後について行くことにした……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「着きましたよ。ここなら余計な揉め事には巻き込まれないでしょう」
「……」
 もうすでに巻き込まれているような気がしてならないけど……置いておこう。
 連れて行かれた先は先ほどまでいた景色とは打って変わった姿をしていた。
 レンガで積まれた壁はところどころ穴があいており、足元には汚れが目立ち、まわりは封鎖されていて……本当にここが同じ街の中なのか疑うレベルだ。
 でもなんでだろう……ボクにとってはあの真っ白で殺風景な空間よりも、こちらのごちゃごちゃとした封鎖空間のがしっくりくるような感じがする。
「何か考え事ですか?」
「……いや」
「それなら歩みを止めずにこちらへ来てください。皆さんを紹介しますから」
「みな……さん?」
 その言葉が気になり車輪の人の所まで近づくと、そこには3,4人の球体が深刻そうな顔をして座り込んでいた。
 そのうちの1人がこちらに気がつくと、馴れ馴れしく話しかけてきた。
「やあ、キミもこの街に迷い込んできたの?ボクはアーク!よろしくー!」
「……」
「おー、新しい人?自分はルトロっていうんだ。よろしくね」
「……」
「……メビウス。詳しい話はまた後でな」
「……!!」
「そして紹介が遅れましたが私はカイレといいます。以上4人がこのメカノアートの〝裏町〟と呼ばれている区間で警備などをしている者です」
「そ、そうなんだ……」
 どうしよう、急に自己紹介とかされても困るんだけど……しかも4人も。覚えられる気がしないし、仲良くしようとも思えない。
 あれ、そういえば1人だけ何も言ってこないあの人は何なのだろうか。まあ、話しかけて来ないならそれに越したことはないかな。
 とりあえずどうしたらいいのか分からず呆然と立っていると、ふいにカイレがとんでもないことを聞いてきた。
「失礼ながら、あなたの事を軽くでいいので教えてくれませんか?」
「え⁈ボ、ボクは……アスタ ニーナタウンから…来た」
「分かりました。ありがとうございます」
 び、びっくりした……突然自己紹介を求められてきて死ぬかと思った……やめて、そういうの本当に。
 ボクが冷や汗をかいていると、今度はアークとルトロがいきなり目の前で回り始めた。
 なんだ、何する気?
「ショートコント!ベーゴマ!」
「ギュルルル!!」
「グルルルルルー!!」
「違うよ、スピン音はこうだよ!」
「そうじゃないよ、こうだよ!」
「あー、だからー……目が回ってきたー!まるでカイレのようだー!」
「それを言うなら忙しさで目が回るーでしょ!」
「そうだったー!こりゃ一本取られたわー!」
「「あはははは!!!!」」
 と2人が笑い始めると同時に、回転で気持ち悪くなったのか地に手をつき呻き声を上げ始める。
 え、何これ。何がしたいの?
 同じくそれを見ていたカイレは深くため息を吐くと、先ほど一言も発しなかった人を連れてボクの前に申し訳なさそうな目で立った。
「ごめんなさい、気にしないで。いつもあんな感じだから、あの2人」
「……別に」
「それなら良かった。少しお話があるの。付き合ってくれます?」
「分かった……」

 ボクらはその場からそっと離れると、古錆びたドラム缶の上に座りお互いの顔を眺め合う。
 暫しの沈黙の後、最初に声をあげたのは唯一名乗ってない人だった。
「ねえ、きみも他の町から来たんだよね?」
「えっと……そ…そう」
「じゃあぼくと同じだ!ぼくも違う町からここに来たんだよ!」
「……」
「ぼくはちひろ!アートアンサンブルから来たんだよ。あ、あっちの話は後でしようか」
「あっちの話……?まあいいでしょう。それよりもアスタさんに1つ質問があります」
「?」
 カイレは一直線にこちらを見つめると、話の続きを並べ始める。
「あなたは何故この街に来たのですか?」
「それは……」
「これは私の推測ですが、あなたは結果として来るはずではなかったこの街に来てしまった。違いますか?」
「……そう」
「やはりそうですか。一応聞きますが住民は皆起きていなかったのではないですか?」
「なんで…それを」
「この街が今、そうだからです」
「……?!」

 この街が……なんだって?
 ニーナタウンと同じ?だからこれだけ静かだっていうのか?

「そんな…そんなことって……」
「残念ですが、これが現実なんです」
「じゃあ……ちひろの町も…?」
「うん…みんなぐっすりだよ。どうしてこんな事に……」
 そんなことはこちらが聞きたいくらいだよ。なんで…どうして……
「原因不明の睡眠障害。それも街単位で同じ事が起きているとなると、何者かが干渉しているとしか考えられませんね」
「ぼく、知ってるよ。前にもこんな事があったよね?みんなが変な顔して他の人を襲うってことがホシガタエリア全土で起きたっていう……」
「そうですね。確かあれは一体のダークマターが原因だったはずです。だとすると、まさか今回も……」
 カイレが発した一言で、場の空気が一気に凍りつく。
 なんとなくそんな気はしていた。そうであって欲しくなかった。でも現実では一番恐れていた事態が起こっている。
 ボクは前の事件の時、町長が1人頑張っている中何知らぬ顔で家に引きこもっていた。町長ならきっとなんとかしてくれると思っていたし、ボクの出る幕じゃないと思ったから。
 だけど今回は違う。町長はもちろん住民は全員夢の中。何をしても起きず、救い出すこともできない。

 そう、今回ばかりは誰にも頼ることができない。だってボクしかいないから。他に誰もいないから……

「とにかく、眠いとは思いますが決して眠ってはダメです。今この状況下で眠ってしまえば間違いなく2度と起きることはないはずですから」
「徹夜で打楽器の練習をしていた身にとっては、とっても辛いなぁ……」
「それでも今は起きてるしかなっ」

 その時だった。
 突然差し込んでいた太陽の光が消え、凍えるような寒気と憎悪のような感覚が体に伝わってきた。
 いても立ってもいられなくなり広い大通りへと飛び出すと、太陽を覆い尽くすかのような数のダークマターと、ニーナタウンで出会った人型の黒い何かがボクの前にそびえ立っていた。
 ボクがそいつの前でジッと構えていると、路地裏にいた残りの人達がぞろぞろとボクの元へと集まってきた。
 するとメビウスが一歩前に出てボクに問いかける。
「おい……あやつはなんだ?あれはダークマター…なのか?」
「……分からない」
「分からぬ…か。確かに分からないな。だがダークマター族と見て間違いはなさそうだが……」
「ダークマター⁈だったら倒さないと!!ねえ、ルトロ?」
「そうだね……放っておくわけにはいかないね」
「そういうことですね。幸いこちらは6人もいます。なんとか追い返すくらい……」
「無理だよ……」
 どこからか飛んできた言葉が心に刺さり声の主の方へと振り向くと、ちひろが暗い顔をして塞ぎ込んでいた。
 一瞬みんなの士気が落ち込みそうになったが、そこへすかさずアークが口を挟む。
「無理ってどういう意味?まさか戦う前から諦めてるの?」
「だってあんなの勝てっこないよ。分かるんだ、ぼくには」
「そんなのやってみなくちゃ分からないじゃないか!!」
「……」
「そうか、キミはそういうやつだったのか……ならいいよ。ボクがあいつを倒してやる!だからキミは急いで隠れ……」
「おい、みんな伏せろ!!!!」
「「?!!」」
 メビウスがそう叫んだ瞬間、吹き荒れる爆風が体を軽く吹き飛ばすと、何が起きたのかも分からぬまま背中に強い衝撃を受ける。
「うぐっ⁈」
 思わず声を漏らしながら視界が真っ黒な空を捉えると、そのまま地べたへと体が吸い寄せられる。
 もうろうとする意識の中必死に目を開け前を向くと、目を疑うような光景が広がっていた。
 平坦だった道のりはガタガタになり、形を保てなくなった灰色の建物が次々と空中で崩れ落ちていた。
「なんだよ…これ」
 立ち込める砂埃を吸い込んでしまい息が苦しくなりながらも懸命に立ち上がる。
 そうか、そういうことか。ニーナタウンでも同じことをされたんだ、ボクは。
 頭の片隅にあった疑問がすっと解けると、おぼつかない足取りで一歩一歩前に足を出す。
 数歩進んだところでつい先ほど見た背中が視界に入ると、ゆっくりと近づく。
 背中に手が届く距離まで近づいたところで、初めてその背中が震えていることに気がついた。
 どうすればいいのかも分からずになんとなく背中に手をかけると、その背中の主が…ちひろが涙を目に浮かばせてこちらを振り向いた。
「……」
「……アークはぼくを庇って…それで……」
「……」
「なんでぼくなんか……ただの弱虫のぼくなんかを助けて……」
 ちひろの潤んだ瞳からそっと視線を移すと、体のあちらこちらが剥がれおち、ピクリともしないその体をちひろは抱きかかえていた。
 見るに耐えなくなって視線を更に逸らすと、右手から傷だらけのルトロが虚ろな瞳でこちらへと近づいてきた。
 ルトロはボクらの姿を見つけると、ゆっくりと口を開く。
「カイレちゃんも…ダメだった。打ち所が悪かったのか、そのまま……」
「……」
「アーククン…君は君なりの正義を執行したんだね。お疲れ様……あとは自分に任せてゆっくり休んで……」
「……」
 ルトロがアークにそんな言葉をかけると同時に、背後から衝撃音の連打が鳴り響いてきた。
 少々驚きつつもバッと後ろへ振り返ると、空中ではメビウスが1人で謎の黒い人型の影と戦っていた。
「メビウスクン……まさかたった1人で……」
 絶えることなく鳴り響く衝撃音。乾いた風の音。聞こえてくる泣き声……

 なんだろう、この感情は。普段は感じることはあっても、奥底までは行きつかないようなこの感覚は。ボクは…あいつを……!!

 ……その瞬間、揺れ動く事ない感情が、プツンと切れたような気がした。

「ルトロ、キミって空を飛べる?」
「え?飛べないことはないけど……」
「なら……ボクを上まで上げて。遥か雲の上まで」
「考えが……あるんだね?」
「……」
 ボクはこくりと頷くと、ルトロは何も言わずに姿を変え「乗って」と一言呟く。
 しっかりと背中にしがみつき問題ないことを告げると、足が地を離れグングンと上昇してゆく。
 やがて雲を突き抜け大気圏まで辿り着くと、ルトロの背中から飛び降り信じられないような速度で急降下してゆく。
 目標はただ一体。そいつを潰すためだけにボクの持てる全てをぶつける!
 右手を強く握り巨腕の岩石を握り拳に見立て生成すると、頭上へと振り上げる。
 目標を焦点と重ねると、大きく息を吸い込み歯をくいしばる。

 アッパーカットの応用版。砕けろ−

「メテオフィストッ!!!!!」

 天高く上げた拳をそいつの瞳にギリギリと音を立てながらめり込ませると、勢いを止めることなく右手に力を入れ続ける。
 ボクは風を切る音を聞き流しながら一直線に落下し、加速を一切緩めることなく地面へと叩きつけた。
 すると同時にゴォォォ!!という地面が割れる音と共に溢れんばかりの砂埃が巻き上がる。
 ボクは完全に勢いが止まり強い手応えを感じ取ると、岩石の拳を解除させて割れてしまった地面の奥底を見つめる。
 今ので生きているとは到底思えない。だけど、聞くことは聞いておかないと。
「おい…聞こえているか? 聞こえているなら質問に答えてもらうよ」
「ギギ……」
「……!!アンタは何者なんだ?何故この星に来た」
「トモ…ダチ……」
「……は?」
「ワレラト…キミタチ……トモダチ…ナル。ワカリアエル……」
「ど…どういう意味だ お…おい!」
 そいつはその言葉を最後に、灰となって消えていった……
 友達?分かり合える?冗談でも笑えない…そんなこと。
 とにかく終わったんだ。今は深く考えなくてもいい。とりあえずは残った人達の確認を……
 と考えかけて仰向けに倒れこんでしまう。どうやら立っているのもやっとだったみたいだ。
 空を見上げると大空を陣取っていたダークマター達はあいつを倒したせいか、気付かぬ間に姿をくらましていた。
 真っ黒だった空は徐々に元の色へと落ち着き始め、雲の切れ目からは暖かい太陽の光が差し込み傷ついた体を優しく包み込む。

 ボクが暖かい太陽の光に感謝を感じていると、そこに足音を響かせながらメビウスが駆け寄ってきた。
 メビウスはボクをジロリと眺め考えるような素振りをした後、大きく口を開く。
「終わったのか?」
「……ああ」
「あやつがなんだったのかは分からないままだが……おそらくあやつは偽物だろう」
「偽…物……?!」
 あれが偽物だって?最初の一撃で全滅しかける程の攻撃を放ったあれが……?!
「おっと、信じられないのは分かってる。だがあのしっかりとした手ごたえの無さは間違いない」
「…….」
「そうなると本物は別にいる。そしてあの感じ、今回ダークマターをこの星に呼び寄せたのもあやつなのだろうな」
「たぶんね……」
 確かに手ごたえはあったけど、なんか妙な感じだった。でもあれで偽物なら、本物って一体……
「それで、これからお主はどうするんだ?」
「これから?」
「そうだ。お主はもうすでに気づいてると思うが、我はダークマターだ。よってこれ以上この件に首を突っ込むようなことはできない」
「……」
「だがハーフのお主は違う。今の戦いを見て、お主ならこの事件を解決できると思ったのだが…どうだ?」
「全てお見通しってわけか……」
 ボクはふうーっと息を吐くと、自分が本当にどうしたいかを自分自身に問いかける。
 いや、問いかけるまでもないか。
 もう、答えは出ている。そう−
「それがボクにしかできないことなら…やるよ そして必ず本物をこの手で……」
「そうか。助かる」
「それで…どこに向かえばいい?」
「分かってる事は皆が眠りから覚めないことだけ。となるとジークフリートにある夢の泉が怪しいな」
「夢の泉だね…分かった」
「気をつけろよ。何か嫌な予感がする」
「ああ……」

 そう自信のない返事をメビウスに返していると、ルトロがちひろの手を引きながら笑顔で近寄ってきた。
 とりあえず適当に手を振るとそれが嬉しかったのかルトロは大声を上げ始める。
「おーいアスタクーン!大丈夫だったー?倒したー?怪我はないー?」
「そんなにたくさん質問されても答えられないから …問題はなかったけど」
「そっかー、良かった良かった!でもこれ、間違いなく追放されるレベルだよね」
「……」
 足元にできた巨大なクレーターをチラリと確認するが、すぐさまルトロの方に視線を戻す。
 確かに街はボロボロになってしまったけど、ボクのせいじゃない。決して。
 ボクがそう思うのと同時に、甲高い笛の音と共に正体不明の球体に囲まれた。
 その球体達は同じ容姿をくるりと一回転させると、ボクの目の前まで迫ってきて警笛を強く鳴らす。
「貴方、私は全て見てましたよ。これ、貴方がやったのでしょう?」
「……うん」
「はああ……全くねえ、本来なら今頃は致死量レベルの電流を流されて病院行きですよ?全く……」
 そいつは深くため息を吐きながらウィンドウらしきものを空中に映し出すと、何やらデータを書き込み始める。
 こちら側からは何を書き込んでいるかは分からないけど、たぶんこのクレーターを作った犯人のデータでも打ち込んでいるんだろう。犯人はボクだけど。
 ボクらがジッと待っていると、痺れを切らしたのかルトロがとんでもないことを口走った。
「ねえ、システムが電流を流さなかったってことは、自分たちは無罪なんだよね?ね……?」
「それは少し違うわ。貴方達が罰を喰らわなかったのはシステムが貴方達に任せた方が、あれを追い返せる確率が高いと判断しただけ。だからこのクレーターは立派に有罪よ」
「えー!じゃあっ」
「でもそんな心配しなくていいわ。この通り街に対する損傷は激しいけど、貴方達がいたからここまでで済んだ。だから今回はこちらでなかったことにしておきます」
「ポ、ポリツィアちゃん……!!」
「ただしこれは今回だけの特例ですよ、特例!もう次はないですからね」
「ありがとうございますー!!」
 ルトロは安堵の表情を浮かばせながら深く頭を下げる。どうやら罪に問われるような事はないみたいだ。
 ボクもルトロに並んでほっとしていると、ポリツィアがボクに声をかけてきた。
「貴方、名前は?」
「……アスタ」
「ではアスタ、1つ貴方にお願いがあります」
「……?」
「実は小一時間ほど前にビルレスト大橋の方から救難信号が届いています」
「ビルレスト……?」
「そうです。どうやら最近こちらの方で試験的に導入したシステムの方で何か問題があったようです。本当なら責任者と共に同行する予定でしたが、その責任者が寝てしまっていますので……」
「連れていって……欲しい…と?」
 投げ出した問いにポリツィアが頷くと、頭上から何かが手元に飛んできたのですかさずキャッチする。
 手を広げ見てみると右手には四角い機械が握られていた。
「何?この薄い箱みたいなの」
「それはタブレットです。そしてそこに私が……よっ」
「おお……⁈中に……」
「これで大丈夫です。それでは、ビルレスト大橋に着いたら下のボタンを押して呼んでください。それでは」
 そう言い残すと、ポリツィアは目の前から姿を消した。
 不思議な機械だな……タブレットだっけ?ここにはこんなものもあるんだ……
 と、感心してる場合じゃなかった。話がトントン拍子で進んでしまったけど、これじゃあビルレスト大橋に寄って行かなくちゃダメじゃないか。めんどうなことを……
「大変そうだな、お主も」
「全くだよ……」
「と、とりあえず頑張ってね!応援してるから!」
「我も旅の無事を祈っておるぞ」
「……」
「……ありがと」
 ボクはメビウス達に別れを告げると、街の出口へと歩いていった……

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あれ…誰かいる……」
 ほんの数分歩いたところで道が切れた所に出ると、そこで壁に寄りかかって静かに腕組みをしている人を見つけた。
 最初は遠くて分からなかったけど、近づいてゆくにつれてそれが誰なのか分かってきた。あれは……
「カイレ……?」
 ボクが名前を呟くと、カイレはこちらを振り向きそのまま地面へと吸い込まれてゆく。
 驚きつつも滑り込みながら体を支えると、カイレは虚ろな瞳でボクの目を見つめて呟く。
「待ってた……」
「……待ってた?」
「私はもう…意識を保てそうにない。だから…最後にお礼をと思って」
「え……」
「街を救ってくれて…ありがとう……」
「……」
 お礼を告げた声の主は、虚ろな瞳をそっと閉じ…動かなくなった。
 ボクはカイレを優しく壁に寄りかからせ声をあげる。

「ねえ…キミはどうするの?ちひろ…」
 すると壁の隙間からちひろが顔を出し、トボトボとボクの前で立ち止まり……言った。
「お願い…ぼくも連れていって」
「……」
「ぼくは自分が情けない……だから、今度こそは前を向きたいんだ。自分の力で」
「…好きにすれば」
「……ありがとう。ぼく、頑張るから」
 ちひろは自分に言い聞かせるように呟くと、ボクの手を力強く引っぱる。
 やれやれ、これじゃあ簡単には戻ってこれそうにないな……

つづく。

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