「あー!外だー!!」
「やっと出られたね……」
「疲れたよ……とほほ……」
ボクらは眩しい太陽の光を浴びながら、口々にそう呟く。
ふっと後ろを振り返れば、洞窟ダンジョンへの入り口が入った時と何一つ変わらないまま立っていた。
そんな扉を見つめながら、また入る時が来るのだろうか?という考えが頭をよぎる。
そうして5,6分くらい経った頃、マーニーが目を輝かせながらこちらに話しかけてきた。
「ラレイヴさん、それが夢のかけら?」
「あ、これ?そうだよ」
「へええ、虹色の光を放ってて美しい……まるで真珠のようだ……」
「ミゼにも見せて見せてー!」
「ほら、どうぞ」
「わー、本当に綺麗だー!」
「ねえラレイヴさん。もしよろしければこれ、こちらで預かっても……」
「ダメ。その目、売ることしか考えてないでしょ。それにこれは必要なものだし」
「ちぇー!残念だなー」
がっくりした顔で地面を蹴りながらそう言うと、マーニーは手にしていたものをこちらに差し出してきた。
なんだろうと顔を近づけてみると、マーニーの右手には錆びだらけの小さな鍵が握られていた。
「これ、錆だらけで使い道も分からなかったからラレイヴさんにあげるよ」
「いや……ボクに渡されても困るんだけど」
「いいから受け取ってよ!なんかラレイヴさんが持っていた方が良い気がするからさ」
「あんまり荷物は増やしたくないんだけど……まあいっか」
ボクはマーニーから錆びれた金の鍵を受け取ると、小さな鞄の中へとしまい込む。
「さてと、ボクは次のダンジョンへ行くけど……2人はどうする?」
「僕はパスで。疲れたし」
「ミゼも動けないからパスー!」
「そっか。2人とも協力してくれてありがとう。それじゃあね」
一緒にダンジョン攻略を頑張ってくれたマーニーとミゼに別れを告げると、薄暗い森の中を1人歩き出す。
時計はないけど太陽の位置的に、今は午後の3時くらい。日が落ちてからのダンジョン攻略は危険なので、行けてあと1つといった感じかな。
幸いにも次のダンジョンはこの森の中にあるみたいだから、時間的には少し余裕があるけど……
「問題は見つかるか……なんだよね。この森も結構広いし……」
でもまあ、とりあえず見つかることを願って探すしかないか。
木々の間から差す木漏れ日を受けながら、右へ左へとダンジョンを探す。
くまなく探してはみるものの、それらしき影は一向に見つからない。
そんなこんなで時間だけが過ぎていき、気がつくと木漏れ日が茜色へと変わっていた。
今日はもう無理かな……と思っていると、ガサッと茂みが揺れる音が聞こえてきた。
注意を音の鳴った方へと向けると、青いマフラーを巻いた青年が茂みの間から顔を覗かせていた。
ボクは驚かせないようにゆっくりと近づくと、声をかける。
「そこにいるのはウノ君だね?次のダンジョン協力者の」
「ばれちまっだがぁ」
「いや、バレるよ。そんなマジマジと見てたら普通」
「流石だべなぁ」
ウノ君は茂みからひょいと抜け出すと、体にかかった葉っぱを払いながら挨拶をしてきた。
こちらもそれに合わせて挨拶を交わすと、突然手を掴まれ引っ張られる。
「な、なんだい急に⁈」
「行くべよ。もうみんな待ってるっぢゃ!」
「そうなの⁈」
「そうっぢゃ!」
そうか、もう次のメンバーは集まっていたのか。待たせてしまって申し訳ないな……
そんなことを思いながらウノ君に手を引かれ身を任せていると、不思議な扉とその手前に2つほど待っている人影が見えた。
ボクが扉の前まで到達すると、灰色と緑色のツートンカラーが目立つウィーゼル君が口を開いた。
「あ、ラレイヴくん?遅かった、ネッ?」
「ごめん……ダンジョン探すのに手間取ってて」
「気にしない気にしないー!そうそう、ぼくの名前はナーセル!よろしくラレイヴさん」
「こちらこそよろしく」
そう言うと、今までと同じようにウィーゼル君とナーセル君とも握手を交わす。
ウィッチからあらかじめ話を聞いていたとはいえ、次のダンジョンは4人での攻略か。
ウィッチの話では、おそらく今回のダンジョンが1番楽だろうと言ってはいたが、人数が1人多いところを見ると油断はできない。
まあ多くても少なくても、油断なんてものは少しもする気はないんだけどね。
ボクはふうっと一息吐くと、茂みの上にポツンと浮かんでいる星型の扉へと手をかけいつものように扉を押し開けようとするが、扉はピクリともしない。
「あれ?おかしいな……」
「どうしたっぢゃ?」
「いや、扉が開かないんだよね……なんでだろ」
「うーん、鍵がかかってるんじゃない?鍵穴のようなものも見えるし」
「確かにそう言われてみれば……」
ナーセル君に言われ扉をよく見てみると、小さな鍵穴らしきものがあった。
「鍵がないと入れないってことだ、ネ?」
「そうみたいだね……」
「さて、どうしよう……ん?待てよ」
鍵というキーワードを改めて聞き、思い出したかのように鞄の中へと手を突っ込む。
手探りで鞄の中を探っていると、手が冷たい物に触れたので、それを鞄の中から取り出しみんなの前に差し出した。
「これ、もしかしたら使えるんじゃないかな?」
「錆びれた鍵……?」
「でもそんな鍵使えるのか、ナッ?」
「それは分からないけど……ダメ元でやってみよう」
「お願いするっぢゃ!」
みんなの疑問を受けながらも錆びれた鍵を小さな鍵穴へと差し込むと、ガチャリっという音が鳴り響く。
まさかと思い扉を押してみると、先ほどとはうって変わっていとも簡単に開くことができた。
「あ、開いた……」
「……ま、まあこれでダンジョンに入れるんだし、いいんじゃないかな?」
「それもそうだ、ネ」
「よし、それじゃあ行こうか」
ボクの一言にみんなが頷くのを確認すると、薄暗い洞窟の中を持っていたライトで照らしながら進んで行く。
平坦な一本道ではあったが、前回の洞窟ダンジョンの件があったため、一応周りを警戒しながら進んだ。
だけどこれといってトラップなどはなく、しばらくすると大きな空洞に辿り着いた。
念のためライトで辺り一面を照らして見るが、これといっておかしな点は見つからない。
完全に安全っていうわけではないけど、これ以上ライトをつけると電池がもったいないな…..
そう思ったボクがライトの灯りを消すと、真っ暗闇の中に輝く一点の光が目に飛び込んできた。
気になって近づいてみると、そこには……
「夢のかけら……⁈」
半信半疑で触れてみると、七色に輝く結晶は弾けとび、小さな欠片が手元に残った。
その様子を見ていたのか、背後からドタバタと足音を立てて3人が近づいてきた。
「なんじゃいまの⁈なにをしたんぢゃ?」
「あ、これね。夢のかけらをゲットしたらこうなった」
「夢のかけら?じゃあもう目的は果たされたってこと?」
「うーん、そういう事になっちゃうかなぁ」
「えー!!じゃあぼく達の出番はおしまい⁈」
「えっと……残念ながら」
「そんなぁ〜」
「そうでもないみたいだ、ヨ?ナーセルくん、君が出せる限界までのろうそくを出してこの空間を照らしてみた、ラ?」
「限界?それだと5本だけど……」
「ならそれ、デ」
「分かった」
そう答えたナーセル君は手の平からろうそくを生成すると、それらを宙に浮かばせ散開し火を灯した。
ろうそくの灯りに照らされ広大な空間が露わになったのはいいものの、一瞬で視界に映り込んできたものを見て驚愕した。
明るくなった空間のど真ん中に、全長20mはあるであろう蒼白のドラゴンがボクらの事をじっと見つめていたのだ。
暗さのせいで今まで気づかなかったけど、これは……
「やばい……ね」
「どうすんのどうすんの⁈すっごくこっちを見てきてるよ⁈」
「これはまいった、ネ」
「どうするっぢゃ?ラレイヴ」
「どうもこうも、ここは逃げるしか……」
そう言いかけた瞬間、ドラゴンが大きく口を開けて真っ直ぐにこちらへと突っ込んできた。
「みんな避けろ!!」
その一言と共にボクらはなんとか回避するが、反応が遅れたナーセル君が風を切るかのようなスピードで壁へと打ちつけられた。
「ナーセル君!!」
「どうやらこちらもやばいみたいだ、ヨ」
「くっ!」
ナーセル君を吹き飛ばしたドラゴンは、くるりと向きを変え今度はこちらに向かって突っ込んできた。
先ほどと同じように左右に避けるが、避ける先をまるで分かっていたかのように巨大な尻尾が目の前に現れた。
当然避け切れるわけなく、もろに尻尾の振り回しを喰らい壁へと叩きつけられる。
「痛つつ……案外やるんだね、あのドラゴン……!!」
そんな言葉を零しつつ、めり込んだ体を壁から引き剥がすと戦闘体制に入る。
「えっと、みんなは……?」
準備が整うまでの間に急いで現状を確認すると、ウィーゼル君がドラゴンの注意を引き、その間にウノ君がドラゴンへと重い一撃を何発も入れている様子が見えた。
力に自信があるウノ君の攻撃をあれだけ喰らえばもう沈むだろうと思ったが、どうやら現実はそんなに甘くないみたいだ。
ドラゴンは攻撃を受けつつも大きな雄叫びを上げると、突然右足のみを後ろへと下げた。
あの構え……まさか!!
「まずい!ウノ君、ウィーゼル君!その場から急いで離れるん……」
そう叫びかけた時にはすでに遅く、体を大きくひねったドラゴンは左足を軸としてその場で急回転を繰り出した。
上にいたウノ君もドラゴンの正面にいたウィーゼル君も回転に直撃し、2人とも壁へと叩きつけられる。
「ぐっ……!!もう許さなイ!!」
ボクはダークソードを両手に握るト、ドラゴン目掛けてハシリ出す。
ドラゴンはボクの足音ニ気がつくと、巨大な右腕ヲ振りかざしてきた。
それを目視シタボクはそれを飛び上がって避けるト、右腕の上を斬りつけながらコロがりダークソードをドラゴンの両目へとぶん投げた。
何が起こったのかリカイできない様子のドラゴンハ、飛んでくるダークソードを避けられずニ両目に突き刺された。
流石のドラゴンも両目をヤられると無事では済まないラシク、頭を振りながら苦しみだス。
「ふう……大丈夫みんな⁈」
「あー、なんとか、ネ」
「回転攻撃なんて聞いてないんじゃけど」
「や、やっと抜けられた……」
「どうやら全員無事みたいだね……」
ボクは安堵の息を吐くと同時に、未だ暴れているドラゴンへと向き直る。
あいつは今、目が潰れたことによってボク達のことが目視できないはずだ。なら、攻め入るなら今しかない……!!
「みんな!決着をつけるなら今しかない!ボクがあいつの頭を叩くから、そのサポートをお願いできる⁈」
「それなら任しとけっぢゃ!オデは尻尾を抑えるじゃきに!」
「それなら僕はラレイヴくんの道でも作るか、ナ」
「よし、頼むよ」
「えっと、ぼくは……?」
「ナーセル君はボクと一緒に来てくれ。協力して欲しいことがある」
「うん、分かった!」
ボクらは会話を終えると、それぞれドラゴンへと向かって行く。
当然足音を聞き取ったドラゴンが黙っているわけがなく、巨大な尻尾を振り払ってきた。
すると一番前を走っていたウノ君は尻尾の真上へと飛び上がり、そのまま急降下で尻尾へと拳を叩きつけた。
ガゴンッと地面が割れる破壊音が鳴り響くと、ドラゴンは尻尾には目もくれずこちらに向かって口を大きく開けてきた。
なんだと思いながら走っていると、突然熱気の様な暑さが漂い始め、次にドラゴンを見た時にはとてつもない速さの火炎球が目の前まで接近していた。
「間に合わなッ」
「任せ、ナッ!!」
ウィーゼル君はそう言い放つと、火炎球に向かって強烈なアッパーを繰り出す。
「ぬううううおあああ!!!」
「ウィーゼル!!!」
だが、火炎球の勢いがあまりにも強かったせいか、掻き消された炎と共にウィーゼル君は後方へと弾き飛ばされてゆく。
「くっそォォォォ!!!」
ウィーゼル君、君の努力決して無駄にはしない!!
ボクは地面を強く踏み込み飛び上がると、残っていた2本のダークソードを構え叫ぶ。
「ナーセル!ろうそくをボクに向かって飛ばせ!!」
「ろうそくを⁈」
「そうだ!!早く!!!」
「何をするのかは分からないけど……ほらッ!!」
ナーセル君は宙に浮かんでいたろうそくの向きを変えると、ボク目掛けて一直線に飛ばしてきた。
ボクはそれを確認すると、ダークソードで斬りつけ吸収する。するとダークソードから紫色の炎が溢れ出した。
ミックスコピーの単コピー……初めての試みだったけど上手くいった…..!!
あとは……
「お前を倒せば!!!」
ボクは落下に勢いをつけると、右手に力を入れ後ろへと振り被る。
そしてドラゴンと目が合った瞬間、剣先をドラゴンへと向け斜めの軌跡を描きながら振り払った。
ドラゴンはうめき声を上げるが、すかさず左の剣でも同様に斬りつける。
「まだだ!!」
ドラゴンは苦しみのうめき声を上げ続けるが、そんな事は御構い無しで間髪入れずに何度も何度も斬りつける。
斬りつける度ニドラゴンのアタマはボロボロになってユキ、鱗は剥がれ、見るもムザンな姿になってゆク。
マダダ……マダ足りない……もっと、モット…….!!
「もうやめろラレイヴ!!」
「……エ?ナンデ?だってマダ……」
「もうドラゴンの首は落ちてる!それ以上やっても無意味だ!決着はついたんだよ……!!」
「ア……」
なんだコレ……
ドラゴンの首……?デモどう見たってニクヘンにしか……
「これを……ボクが?」
「そうだよ。どうして切り落とした頭を何度も……?」
「……!!」
その言葉を聞いた瞬間、身も凍るような寒気がボクを襲ってきた。
ボクは……どうして……
「ナーセル君、ボクは……」
「……とりあえずここから出よっか。あまり見たくないものもあるし……」
「うっ……」
「あ、もうくらくらじゃないか。ほら、掴まって」
「すまない……」
倒れかけたところをナーセル君に助けられると、傷だらけで戻ってきたウィーゼル君とウノ君と共に、元来た道を引き返していった……
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今日はみんなに迷惑をかけたね。本当にすまなかった……」
「気にする事ない、ネ」
「その通りっぢゃ!まあ確かにあの時のオメは凄い気迫じゃったけどな」
「やっぱり……」
あの時の事、夢じゃなかった。
なんでボクはあんな事を……
考えれば考えるほど嫌になって、ボクはみんなに背を向け歩き始める。まるで逃げるかのように。
「あ、今日はもう解散かじゃ?お疲れさん〜!」
「そういう事なら僕も失礼させてもらおうか、ネ」
「…ありがとう、3人とも。それじゃあボクはこれで……」
そう言うと薄暗い森の中に一歩、また一歩と歩みを進めて行く。
きっとあの3人はボクの事を危ないやつだと思ったに違いない。いや、絶対そうだ。だから早くここから……
「待って!!」
突然背後から声をかけられるが、ボクは歩みを止めようとはしない。止めたくもない。
止まらない事を悟ったのか、声の主はそれでも続けて声を上げる。
「ぼくはラレイヴさんが何故あんな事をしたのかは分からない。分からない……けど!ぼくは今日のあなたの事を忘れない!忘れないよ!!」
「……」
「だからさ、今度また会えたなら、その時は……ぼくと友達になってよ!!」
「……」
ボクはそっと右手を上げ、軽く手を振り別れを告げた。
ありがとう、ナーセル君。
今は、その気持ちだけ……受け取っておく。
こうして3人とモヤモヤした気持ちで別れると、ボクは1人暗い闇の中へと進んで行った……
つづく。